一期一会、機内で


伊丹から千歳へ向かう飛行機の中で、私の隣に座った女性がアテンダントさんを呼び止め一枚の毛布をお願いし、寒いのかと思っていたら毛布を背中に当ててもらっていた
アテンダントさんが去った後も背筋を伸ばし背中の毛布をあちこち動かしては一番良い位置を探していた
見かねて「大丈夫ですか?」と一言声を掛けると
そこからお喋りが始まり飛行機が千歳に到着するまでその女性と話し込んでしまった、反対隣に夫君がいるにも関わらず、しかもまだ声枯れから私は完全復帰していないのでかすれ声での相づち
何度も飛行機に乗っているが飛行機の相席でこんなに話し込むのは初めてだった
一人飛行機で移動することの意味を尋ねてみたくなる好奇心が私にあったのかも知れない
その女性は数年前に高いところから落ちてしまったらしく「誰か助けて!」と叫んだ後に意識を失い救急車で病院に運ばれて大手術をされたそうです
大事に至らず一命を取り留めたこと、こうして旅行が出来るのだから本当に良かったですねと受け応えしたが、それは信じられない状況での落下事故で当地の新聞の記事にもなったらしい
普段から背中に何かをあて背筋を伸ばしていなければ痛みがくるからと、その不便さを嘆いていた



そのことにばかり驚いていたら、その方の御主人が転勤先で病気で亡くなり自分と息子さんの2人はその女性の北海道の故郷に戻ったということを何の関係もない私にさらりと話された
女性の口調が関西弁ではなく懐かしい北海道訛りであることに尚のこと親しみを感じていたし、自分の声がかすれている分聞き上手になっていたのかもしれない
自分も嫁いで関西に来たことを簡単に話していた
それにしても何という人生、私よりも若いと思うその女性の今まで体験してきたことを、この短時間に坦々と話されたことに、私は機内のイヤフォーンに手を掛けたまま音楽を聴くでもなく聞かされていた
御主人の転勤先に付いて行き、その地に慣れようと自分も仕事を求め、その時の職場の同僚を尋ねて今回の旅行になったらしい
事故はその職場で合われたのだろう



こうして人懐こく話をされるのだから、きっと訪ねて行かれた同僚さんとの関係性はかなり深いものなのだと思った
訪ねて泊まってくるのだから当然といえば当然
数日滞在して関西の人の多さと住んでいた頃には少数だったアジアの観光客がどこも賑わっていること、外人さんに突然道を尋ねられたことを面白可笑しく話していた
連休初日、機内は満席で、ゲートを潜るのも機内に入るのも長者の列をつくっていたし、土曜日に帰ることになったのを後悔していた、来るときは両サイドの窓際に乗客が収まるくらいで機内が落ち着いていたという
この機にしたのは連休に同僚さんのお孫さん家族が訪ねて来ることになっていたからだそうで、それなら1日早めの平日に乗ることにしたら良かったと言っていた

女性の故郷は千歳からもう一度飛行機で乗り継いで1時間ほど掛かるという、バスならば4時間だというし、それだと腰に負担がかかる
見ず知らずの私に話しかけ、その気持ちの大らかさは、北海道の大自然の中で育ったことが無関係ではないと思ったのでした
どうか、お元気で♪