Nさん、有り難う。

私は、10年程前から、家で出来る、唯一の仕事(主にミシン掛け)をしている。
その仕事を毎週一度、配達してくれる、Nさんが、5月の連休から、休んでいる。
そのNさんの代わりに配達してくれる社長さんが、今日、新人さんを連れて、やって来た。

丁度、我が家の、おじいちゃんが、入院した時期と、Nさんが休む事になったのが、重なっていた。
Nさんは、まだ若いので、それ程、気にしていなかった。
原因不明の腹痛と聞いていたので、胃潰瘍か何かだと思っていたくらいだ。

代わりに社長自ら配達を担当して、もう3ヶ月になるのか。

「Nさんは辞めてしまったの?」と、尋ねると、社長さんは忙しく、仕事をする手も休めないで、

「亡くなったんですよ。盆前に、肝臓癌だったらしい、僕より一つ年下で、51歳だったって。」「僕、29年生まれですから・・・」

新人さんに、仕事を説明する合間の、ほんの僅かな間に、何度か繰り返していたであろう(各内職さんに)、Nさんの死の報告を、半ば事務的に言った。

この仕事を始めて、ほぼ10年。
Nさんも、まだ新人さんで、毎週火曜日、顔を会わせていた。
ぶっきらぼうなところもあったが、仕事は真面目にやっていた。

何時、復帰してくるのかと、ずっと気になっていたのに。
亡くなったなんて。
休む前に、なんの挨拶も出来ないままだった。
私と同じ歳だったのか?とショックがジワジワ押し寄せる。
5月の連休前の、配達を最後に、もう2度と、会う事が出来ない人となった。

何度か、「原因不明の腰痛か?腹痛か?分からないけど、大病院で検査をしているから、安心だね」、と世間話の様に、社長さんは言っていたが。

大きな病院だから、深刻だったのだ。

全く無責任に、人ごととしか、とらえていなかった。
社長としては、知っていながら、取り繕っていただけだろう。
会社には何度か来ていて、病状を話していったらしい。
本人は、きっと本当の事は、知らされていなかったのかも。

5月に入って、検査。
ああ、おじいちゃんと一緒だあと、ふと、思う程度だった。
それから、8月のお盆。
手遅れだったにしても、癌って、こんなにも早く死ぬなんて。
50代になったばかりじゃ、心残りが、沢山あっただろう、と思うとやり切れない。
プライベートな話は、殆どといって、しなかったが、我が家より、子供が小さいと感じていた。
一度、「子供が大きくなると大変だよね」、(何が大変か忘れたが)そんな会話が10年の間に、一度くらいは、あった。
後は仕事の話と、天気の事くらい。
Nさんの元気な声と、やり取りが、思い出される。

Nさんのご冥福を心から、お祈り致します。
どうぞ、安らかに。
今まで、本当にお世話になりました。
有り難うございました。