若者たち 

hitto2012-05-09

晴れているようで、薄っすらと雲が広がっている。
予報も安定せずいつまた雨が降り始めるかわからない。


連休最終日、ひょんなことから奥歯の詰め物が外れてしまった・・ショックだあ!
歯医者嫌いの私に(好きな人はいないだろうが)また歯医者へ行けというのか。
何年ぶりだろう?2年間は行っていない。
近所に通えそうな歯医者さんは、何件もある。
古いお付き合いの歯医者さんは、父から子へと引き継がれ、子供のほうの先生との付き合いが20年以上にもなっている。
多分産後からずっと私のお口のお世話を掛けていることになるのか。
他所より治療が早く丁寧だとおもうが、子供や夫は評判の時間は掛かるが丁寧で優しい歯医者さんの方に変えてしまった。
が、私は変えられない絆で結ばれている。


「久しぶりだね」と、声をかけてもらえるし、私のカルテが全て揃っているのだから、多分一生のお付き合いになると思います。
久しぶりに行った院内は、奥様の趣味で本棚にインテリア関係の雑誌が相変わらず並んでいます。
自分では買わない(買えない)オールカラー写真の雑誌を観るのが内心楽しみで通えている節もある。
昔は「美しい部屋」が何冊もあって、憧れていた。
また雑誌を読む楽しみができたということにしよう。

先日観たのは(録画、山田洋次監督の百選)「若者たち」1967年公開の映画。
久しぶりに映画を観てショックを受けました。


映画は昭和42年、ドラマは昭和41年2月から9月、私は小学校の5年生か6年生か。カラー放送のない時代で映画も白黒でした。
なんでこんなにもショックなのだろう?
この時代の若者が、(正しくは映画に登場した若者たちが)みんな必死に考え生きていたということが、とても眩しかったのだろうか。
それとも団塊世代への憧れが、こんなにも感動させるのだろうか。


どの時代にも自分と、家族、友人、恋人、社会の中で、必死にもがき生きているに違いはないのだけれど。
この映画は幾つもの問題に直面しながら、物凄くストレートに気持ちを吐き出していて、観ている私の心にも自然と入り込み深く考えさせられました。
映画の内容が濃く、山場と思える箇所がいくつも有り、5人の兄弟それぞれが激しくぶつかり合うのですが、男兄弟4人と考えただけでも喧嘩の激しさは想像を絶するものです。
唯一女性であるオリエが、オロオロとしながらも兄弟の間を取り成す存在になっています。


その時代に、私も生きていたことが信じられないくらいで・・私は幸いにも何も知らされない無邪気な小学生だったと思いました。
でも、ドラマの記憶は何となくあるもので、少しマセた小学生だったのだろうか。
姉が二人いたので、きっと背伸びをして一緒に観ていたのだろうと思います。
ちゃぶ台をひっくり返しながらの争いは、この当時なら頑固爺の定番だったので、懐かしくも、とても激しい時代だったことがわかります。
全然内容に触れられてないです・・兎に角内容が濃くて、次から次へと問題が起き、一家を支える長男と大学生の三男が何度も衝突します。


長男は言わずと知れた田中邦衛さん、既に「北の国から」の五郎さんがいました。
次男は一徹で骨太な橋本功さん、三男が大学に通う知的で素敵な山本圭さん、四男は受験生で少し甘えたの松山政路さん、そして紅一点の佐藤オリエさん。役名オリエと名前が一緒だ・・役名から芸名になったのか、本名を映画に使われたのか・・どっちだろ?
オリエさんは、三男と四男の間の長女。



まずは、長女オリエの家出から始まる。
オリエが家出した先の、友人マっちゃんのアパートで現実の厳しさを味わうことになります。
マっちゃんとジュンちゃんとは幼馴じみで、そして同僚で、仲良く二人で暮らしている。
マっちゃんとジュンちゃんの職場が倒産しそうなので、二人は行商までしている。


気楽に身を寄せたオリエがジュンちゃんと楽しそうにしているところへ、マっちゃんが行商していた大きな荷物を抱えて帰って来ます。
マっちゃんは、オリエに7000円の家賃のうち2300円を払うならと言う。
「考えたって駄目よね。生きていかなきゃ」と、ご飯にお湯を注いで一気に口へ運んでいるのが時代を反映しているのか印象的でした、生きることと食べることは同意語と納得してしまう。
「無駄なお茶は買うな・・」と言わせるくらいの貧困状態だけれど、母のように楽な道へは行かないと懸命なのでした。
オリエは、靴の工場へ働き始めます。
日給は520円とか、残業して600円という世の中。
貨幣価値は現在の十分の一といったところか。

ところが、気性の強いマっちゃんは同僚である婚約者に裏切られ、傷つき自暴自棄となり母の元へ帰ってしまい、夜の世界へと入ってしまう。
そこへオリエの兄次郎に助けられます。
次郎の説得で目が覚めたのだろうか、次郎さんの一本気な行動がまるで寅さんのようで、報われない恋に落ちた男性の悲哀みたいなものを感じると、もうたまりません。


大学生の三郎は、友人の借金を取り立てに行き、ここでも生き詰まる貧困に目を背けることが出来ません。
自分のことだけ考えて生きる人間と、弱いものに手を差し出す人間、全く違うようで立場が変わるとどちら側の人間にもなっていたりする。
どちらが良いとか、どちらが悪いとか、簡単に批判したり、生きていくことに綺麗ごとでは済まされないものだったりします。
結局、汗を流し働く人間や、弱い立場の人間には、相手の気持ちを思いやる温かい人間であることが多いのだろうと、思ったりするのですが。
実際、自分の身が可愛いことが前提だったりするから、自分を犠牲にしてまでというようなことには、なかなかならないし出来ません。
しかし、目の前に困った人を見ると、放っとかれず反射的に無茶でもやってしまうのだろうな。
そこが人間の一番素敵なところなのだと思います。


長男の太郎は、まさしくそんな男なのですが、こと兄弟のことに対しては、自分が犠牲になって家族を支えたという自負と、学歴社会で弟に自分と同じ苦労はさせたくないと、末弟に必死で大学進学を勧めたりします。
確かに学歴社会、太郎を袖にした淑子の言うように、大学を出なければ将来性も感じられず遠回りの人生に思えてしまう。
そんな打算で生きていて本当の幸せに出会えるのだろうか。
打算的な自分の正体を語れる相手こそが、自分に一番必要な相手だと気付いたときには後の祭り・・なんて、そこそこの幸せを求める私なんかは思ったりします。


オリエの恋愛問題も深刻で、相手は被爆者。
皮肉にも今の日本の原発事故の差別問題にも通じるところがあり、本当に知ることが如何に大事なことかと思わされました。
終戦から20年ほど経った頃では、原爆の恐ろしさをまだ丁寧に語る人もいなく、政府もマスコミも被爆者の口を封じて社会を誤魔化していたのだと思いました。

隠すように暮らしてきた方々のことを思うと本当に辛いです。
この映画は、そんな風評を吹き飛ばす明瞭な回答を、三郎の口から得られます。凄い映画です。


99パーセント奇形児は生まれない。
胸がスっとするような、未来がパッと花開く瞬間でした。


そして、最後は末弟ボンの大学不合格と長男太郎が失恋したことと、祝い事が転じて二重の仕切りなおしと豪華な食事となったのですが、この場面で進学を勧める太郎と進学を諦めると言った末吉ボンの、間に入る三郎と太郎の、派手な喧嘩が始まり、とめに入る次郎もオリエも、逃げるボンも何が何やら、滅茶苦茶なことになりました。


三郎の言うことが一々説得力があり、惚れてしまう。
バイトして貰った賃金を半ばヤケクソで燃やしてしまうのだけれど、あれは1000円札だったのね。
母親の仏壇購入に5000円出せと太郎に言われ、全部燃やしたように見せて(実は一枚)、これは母への焼香だと言ったりして、燃えるお札を見ながら
「人間は、金より強いんだ!ちっぽけで、弱くて汚れてたって、こんな紙切れより強いんだ!」
と、迫力満点過ぎて、とうとう太郎は気を失ってしまう。
笑う場面ではないのだけれど、太郎さんはどこか笑わせてくれます。

こんな風に兄弟が寄り添って生きていくことが当たり前の時代が、本当にあったような気がします。
別の意味で今後は、老いた兄弟が寄り添って生きていく時代が来そうで、結婚しない若者が多くて、私はちょっと恐い、しかし現在は兄弟の数も少ないから、そうはならないかも。


昨日の夕刊には、就職出来ず、それが原因で自殺した若者が、この4年で急増したとありました。
実際、何十件、100件近くも不採用とされたら、夢も希望も持てません。
でも人間を否定されたということではなく、はずれクジを何遍もひいてしまったことに気付いてほしい。
大学を出てさえも、新卒で就職できた子と大きな格差ができてしまう現実。
就職できたからと言って安心はできないのです。

実際、受け入れ難いことかもしれませんが、生きていさえすれば、この先4倍もの人生があり、必ず喜びもやってくるのです。
現在も決して住み易い社会じゃないけれど、生きていくことは人の定めと思い、先の道を探していってほしいです。いろんな人の意見を聞いてほしいし、こんなことで人生を放棄してはいけません。
もっともっと柔軟に構えていていいのです。

http://www.youtube.com/watch?v=e9EfBXwWDTo&feature=related